あらすじ
亮の祖母を一緒に、探すことにした美由紀。一方、彼女を追って島にやって来た、記者・獅子川は、家族との思い出に浸る。
2
「少しは綺麗になったな、この街も…んっどうした広志?何っ!切り上げたい⁉」
清純派女優とし名をはせる木之元美由紀、彼女はとある俳優と恋に落ちた。だが、その男は二股をかけていた。そして、もう一人の女の方と結婚し、芸能界を去った。
そのことに衝撃を受けた美由紀は休業し、彼女を追って記者・獅子川(50)は、後輩・広志(25)と共に島にやって来た。見張りを広志に任せ、獅子川は呑気にドライブをしていたところ、彼から連絡が入ったのだ。
「彼女一人で来たみたいですし、このまま粘っても収穫はなしですよ~帰りましょ!」
「バカヤロゥ!手ぶらで帰ったら、林田の奴に合わせる顔がねぇだろ!」
と、言ったものの。広志の言い分も最もなので、宿に車で向かい、車内でこの後の予定を話し合った。
「ああ!僕のジュース、勝手に飲まないでくださいよ!」
獅子川から、缶を取り返した広志は、唖然とした。
「空っぽだ~」
「へへへ、ごちそうさん!」
そろそろ正午なので、昼飯を食べに行くことで話は落ち着く。獅子川は、提案する。
「せっかく来たんだし、ショッピングモールに行こうぜ」
「そんなの、どこにでもありますよ」
「バカヤロゥ!俺が出ていった時には、まだなかったんだ!」
「先輩、ここの出身だったんですね」
この島が、出身地であることを獅子川は、誰にも言わなかった。
『あんな街、こんな街、そんな街、ロマンチック~♪皆さん、こんにちは!今日も…』
ラジオ番組のOPが流れた。平日正午、毎度街を紹介している、ラジオ番組だ。
『今回は、RN・ぴょん吉さんからのお便りから始めます!』
「これ、僕が送ったお便りだ!」
興味ないっ、とチャンネルを変えた獅子川に、広志は怒った。
「何するんですか、先輩!」
「下らん街紹介よりも、ニュースを聞け!何々、溶き卵を回しかけ…」
「ニュースって…料理番組じゃないか」
拗ねた広志は煙草を咥えるが、気付いた獅子川がすぐさま叱り、煙草をしまわせた。
「車内で吸うな、バカヤロゥ!」
「もー、うちの親父みたいなこと、言わないでくださいよ!」
(…親父かぁ~この島で死んでから、もう二十年も経つのか)
獅子川の父親は漁師だった。無口でいつもムスッとした親父が、彼は苦手だった。毎晩のように酒を飲み、体を赤く染めていた。だからといって、暴力を振るうような人ではなかった。
そのこともあってか、仲が良いわけではなかった。だが、父親がこっそり自分が買って来た漫画を読んで、笑っている姿に自分達は親子なんだなと、嬉しくなったことを覚えていた。父親は、彼が三十代の頃ガンで亡くなった。島が嫌いだった彼は、葬儀にもお通夜にも、一切顔を出さなかった。
「ちょっと獅子川さん!今赤信号でしたよ!!」
「誰も居ないんだ、問題ないさ」
「なんでこんな人が、ゴールド免許なんだ…」
獅子川は、ショッピングモールに車を急がせた。父との思い出を懐かしみながら…
続く…