あらすじ
里帰りを楽しむ獅子川に、付き合いきれなくなった広志は、獅子川を置いて島を出てしまう。一方、美由紀の秘密を知った亮は、知らなかったとはいえ、自身の無神経な発言を、謝罪するのであった。
6
(今日の獅子川さんは変だ、いつも変だけど今日は特に…)
「えぇっ!ここメビウス、置いてないの!!」
煙草を買いにコンビニによった広志は、警官と仲良く話す獅子川に驚いた。その人は、昔世話になった警官の息子さんで、顔も性格もよく似ているらしい。獅子川が昔、副総長だったことには驚いたが、二人の思い出話には全く興味がなかった。彼が親に迷惑をかけようが、誰を殴ろうが、何をしたかなんて、知ったこっちゃない。獅子川の里帰りに付き合いきれなくなった広志は、隙をついて車を運転し港に向かう。
林田編集長への言い訳を考えながら。
「続きは、また明日にしましょ…宿取ってないんでしょ、私と同じとこにする?」
夕方になり、辺りは薄暗くなっていた。あれからも色々な場所を周ったが、収穫はなかった。美由紀の提案を受けた亮は、一緒に宿まで向かうことにした。そこで、ある疑問を彼女に問う。
「美由紀さん、どうしてあなたは…この島の人の話はしないんですか?」
それが、亮の抱いた疑問だった。島民達との間に、嫌な思い出あったからとも考えたが、彼女は親しく接している。何か意図的に、その話題に触れるのを避けているように思えた。
「私、記憶障害を患ったの…人との思い出だけを忘れてしまう、悲しい病気」
美由紀は悲しげな表情で、自身の病のことを語った。事故の影響で、彼女は記憶障害を患っていた。それがストレスにより悪化し、この島での人々との記憶がおぼろげになってしまった。育ててくれた祖父母のことは思い出せるが、その他の人達のことを思い出せない。十年、二十年と時を重ねると、二人のことも忘れてしまうそうだ。亮は、自身の言動を謝罪した。
交通事故のフラッシュバックがある為、美由紀は車移動は避けて来た。彼女を気遣った亮は、一緒に歩くことにした。それにせっかく来たのだから、この島をもっと楽しみたいと思った。
宿に着き、亮は美由紀の隣の部屋にチェックインした。
続く…